地方自治体における人口減少対策の新潮流

――「関係人口」概念の活用と本市(天童市)の現状――

はじめに

近年、全国的に少子高齢化が加速する中、地方自治体の多くが人口減少という深刻な課題に直面している。本市(天童市)においても例外ではなく、既存の総合計画(以下「7総」)で掲げた2024年度人口目標6万2千人の達成が厳しい見通しとなった。実際、来年度には6万人を下回る可能性が高いとされ、将来的な地域社会の縮小が懸念されている。
もっとも、人口減少は日本全体の構造的課題であり、一地方自治体のみが責任を負うべき事象ではない。しかし、地元出身者としては自らの生まれ育った地域の人口が減少し、活力が失われることに大きな寂しさを覚えるのも事実である。本稿では、本市における人口減少問題を整理し、従来の「Uターン」「移住定住」「交流人口」施策に加え、新たに注目される「関係人口」概念の活用について論じる。さらに、今後の総合計画(以下「8総」)策定に向けた課題と展望を考察する。


1. 人口減少と本市の現状認識

1.1 7総の人口目標と現実の乖離

天童市第7次総合計画(7総)では、2024年度の人口目標を6万2千人と掲げている。しかし、近年の出生数減少と若年層の都市部流出を背景に、来年度には6万人を割り込む懸念が強まっている。こうした人口減少の加速は全国的な現象ではあるものの、地域に暮らす者にとっては地域活力の低下、コミュニティの縮小、産業や社会基盤の維持困難といった喫緊の課題を引き起こす。

1.2 生産年齢人口の減少と地域コミュニティへの影響

少子高齢化と並行して進む「生産年齢人口(15~64歳)」の減少は、地域経済や自治体運営において深刻な影響を及ぼす。働き手が不足すれば、産業構造の維持や行政サービスの確保が困難となる。また、コミュニティ活動や地域行事を支える担い手が減少することで、地域の魅力や活力が一層失われるリスクが高まる。


2. 従来の施策:Uターン・移住定住・交流人口

2.1 Uターン促進・移住定住政策の実態

本市では、若者や子育て世代が地元に戻ってくる(Uターン)あるいは新たに移住して定住するよう働きかける施策を展開してきた。しかし、これらの取り組みはしばしば他自治体との「地域間競争」の文脈で捉えられがちであり、人口誘導策として大規模なキャンペーンを実施しても、根本的な地域の魅力や雇用環境が改善されなければ長期的な定住にはつながりにくい。

2.2 交流人口の拡大と観光振興

交流人口の増大を目指し、観光誘致やイベント開催などによる地域の賑わい創出も試みられている。訪問者数の増加は、一時的な経済効果や地域認知度の向上に寄与するものの、近年ではオーバーツーリズムによる環境破壊・地元住民との摩擦などが課題となることもある。また、地域が持つ文化・資源に十分な魅力を付加し、ナイトエコノミーなどの多角的な消費拡大策を講じなければ、滞在時間の延長やリピーターの獲得が難しいという課題が浮上している。


3. 若年層流出の要因:進学・就職とエンタメ不足

3.1 進学を機に地元を離れる傾向

若者が高校卒業を機に都市部へ進学し、そのまま戻らないケースは多い。これは、大学や専門学校が都市部に集中していること、進学先で得たネットワークを優先し地方に回帰するモチベーションが弱まることなど、構造的要因が絡んでいる。また、就職に関しても、都市部のほうが職種の選択肢が広く、給与水準が比較的高いことから、地元に魅力を感じにくい現実がある。

3.2 エンタメ・刺激不足と地域イメージ

若年層が地元に魅力を感じられない一因として、「エンタメ不足」や「刺激が少ない」といったイメージが指摘される。地方特有ののどかさやコミュニティの安定感は魅力であるものの、若者が求める娯楽施設や新しい文化的体験が不足している場合、都市部への流出を招きやすい。


4. 「関係人口」概念への着目

4.1 関係人口の定義と意義

近年、定住人口や観光中心の交流人口とは異なる「関係人口」への関心が高まっている。関係人口とは、ある地域と多様なかたちで継続的に関わりを持つ人々を指し、必ずしも移住や観光だけにとどまらない。たとえば二地域居住やリモートワークでの地域拠点活用、あるいは地域のNPO・ボランティア活動への定期的参加など、柔軟なかたちの関わり方が考えられる。これにより「地域間競争」という枠組みを超えた「地域間連携」を生み出す可能性が指摘されている。

4.2 7総から8総へ:政策転換の必要性

これまで本市では7総のもと、人口減少対策としてUターン・移住定住・交流人口を軸とした施策を推進してきた。しかし、それらの施策だけでは人口減少を根本的に抑制できていない現状がある。8総の策定に向けては、「関係人口」の概念を取り込み、多様な地域参加のかたちを認め、持続可能な地域連携を模索するビジョンが不可欠と考えられる。


5. 今後の課題と提案

5.1 既存施策の総括と実績把握

Uターン者の年齢層や就業先の確保状況、移住者の増減、交流人口の滞在時間・経済効果など、より具体的かつ定量的なデータの蓄積が必要である。実績や課題を正確に把握することで、的確な政策立案・事業評価が可能となる。

5.2 関係人口を基点とした地域連携

定住や観光といったカテゴリだけでは測りきれない「関係人口」を育成することで、地域資源やイベントへの参画が促されると同時に、新たなアイデアやネットワークが地域に取り込まれる可能性がある。地域間競争に陥るのではなく、周辺自治体や都市部との連携・コラボレーションを重視する視点を強化すべきである。

5.3 雇用環境の魅力向上とエンタメ施策

若者を呼び戻し、定着を促すためには、賃金・福利厚生を含む魅力的な職場環境づくりが重要である。商工会議所や地元企業との連携、奨学金返済支援制度の整備などの具体策をより強化する必要がある。また、ナイトエコノミーなど新たなエンタメ施策を導入し、若者や女性を中心に多様なニーズに応える都市機能を拡充することが望ましい。


結論

本市における人口減少問題は、全国的な傾向の一端であり、単独で解決できるものではない。しかし、Uターンや移住定住、交流人口の増大を図るだけでなく、「関係人口」という新たな切り口を組み合わせることで、地域が抱える課題に多面的にアプローチできる可能性が開かれる。本市が目指す総合計画(8総)では、7総の反省を踏まえ、地域間連携や多様な参加の仕組みを構築するビジョンの明確化が急務である。

人口減少そのものは避けがたい流れであっても、地域がもつ資源や魅力を再発見・再評価し、そこにさまざまな形で人々が関わる契機を作り出すことは可能である。若者の進学・就職時の離郷を防ぐ努力や、Uターン・移住を選びやすい制度設計、エンタメ・文化資源の充実、さらには「競争」から「連携」へと視点を広げることで、本市が今後も持続的に発展し、魅力を高めていけるかどうかが問われている。